、窓外《そうがい》に金粉《きんぷん》のように散るほか、何んの変った様子もなかった。
列車は、せり[#「せり」に傍点]出すように前進して行った。これは、下り坂にかかった証拠だ。
源吉は、少しずつブレーキを廻すと、眼を二三度ぱちぱちさせ、改めて、前方に注意を払った。
行く手には、岬のように出張《でば》った山の鼻が、真黒い衝立《ついたて》となって立ち閉《ふさ》がり、その仰向いて望む凸凹な山の脊には、たった一つ、褪朱色《たいしゅいろ》の火星が、チカチカと引ッ掛っていた。
レールは、ここで、この邪魔者のために鋭い弧を描いて、カーヴしていた。
(下り坂と急カーヴ)
源吉の右手はカマの焔照《ほて》りで熱っぽいブレーキを、忙しく廻し始めた。
今まで、速射砲のように、躰に響いていた、レール接目《つぎめ》の遊隙《ゆうげき》の音も、次第に間伸《まの》びがして来た。
と同時に、躰は、激しく横に引っ張られるのを感じた。
源吉は、尚も少しずつ、スピードを落しながら、ヘッドライトのひらひらと落ちるレールを睨《にら》んだ。蒼白《あおじろ》い七十五ポンドレールの脊は弓のように曲っていた。山の出鼻《でばな
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