軋《きし》みと一緒に、尚も四五|間《けん》滑《すべ》って、ガリンと止まった。源吉は、まだ眼をつぶって、一生懸命、ブレーキにしがみついていたが、しんと、取残されたような山の中で、汽車が止まって仕舞ったと同時に、入れ換って訪れて来たシインとした静寂は、却《かえ》って、洞穴《ほらあな》のような、底の知れない、虚無の恐ろしさだった。
『ヘッヘッヘッ……』
 源吉は、何故《なぜ》か、力のない嗤《わら》い声《ごえ》を立てて、自分でグキンとした。
 ゾッと冷汗《ひやあせ》が発生《わい》て、シャツがぴったり脊骨にくっついた。
(気が違ったんか――)
 激しく頭を振って、源吉は、漸《ようや》く吾《われ》に復《かえ》った。
 見ると、年若い助手の久吉も、矢張《やは》り気が顛倒《てんとう》したものか、歪《ゆが》んだ顔に、血走った眼を光らせながら、夢中になって、カマに石炭を抛込《なげこ》んでいる。カマの蓋《ふた》を開ける度に、パッと焔《ほのお》の映りが、血の塊りのように、久吉の顔に飛ついた。
『バ、莫迦《ばか》……止まってるんだぞ……』
 源吉は、周章《あわて》て、久吉の肩を撲《なぐ》って、その手を押止《おし
前へ 次へ
全22ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング