を描いて流れるレールを見詰めた――。
 !轢《ひ》いた!
 その瞬間、源吉の乗出していた顔に、べたッとなま[#「なま」に傍点]暖かいものが飛ついた。血?
 源吉は、列車が止まるのも、もどかしそうに、飛下りた。
 源吉の躰は、ワナワナと顫《ふる》えていた。
(京子じゃない、京子じゃないぞ……)
 彼は冷汗を拭った。
(た、たしかに男だ。男を轢いたんだ)
 それは、轢いた時の、あの感じで、断言出来た。それに死骸である京子から、あんな、暖かい血の飛ぶ筈はない……。
 源吉は、助手から信号燈を受取ると、無遊病のように、歩き出した。
『アッ!』
 源吉はよろよろっとよろめいたが、すぐ立ちなおった。
 信号燈から円く落された光の中には恐ろしい有様《ありさま》が、展開されていた。
 ――そこには、ゴロンと二つの生首が転がり、二人分の滅茶滅茶になった血みどろな躰が、二三間先きに、芥《あくた》のように、棄《す》てられてあった。
(これは京子だが――)
 も一つの生首を確めた時、源吉は、又新らたな驚きに打前倒《うちのめ》された。
 も一つの生首、それは恋仇《こいがた》き深沢の首だったのだ。
 それどころか
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