番の倉さんに代ってもらっていた――すぐ岩ヶ根の隣駅、Tに駈つけ滑りこんで来た列車を捕えて、倉さんと交代した。

      六

 源吉は、熱っぽい頬を、夜風に曝《さら》しながら、一つ一つが、余りに順序よく、破綻を起さなかったのが、寧《むし》ろ、あっ[#「あっ」に傍点]気なくさえ思われた。
 だが、この轢殺鬼の計画は、最後まで、成功しただろうか――。
『あと二分……』
 源吉は、懐中時計を覗《のぞ》きながら呟《つぶや》いた。
 前方を注視すると、ヘッドライトの光が、夜霧に当って、もやもやとした雲を現わしていた。その白い雲が、動揺につれて、ふらふらと揺れ、頸《くび》を傾《かし》げると、京子の福よかな、肉体を表わしているのではないか、とも思えた。汽車はぐんぐん前進している。源吉は、鼻唄でも歌いたい気持だった。
 軈《やが》て、岩ヶ根の出《で》ッ鼻《ぱな》が、行く手を遮って、黒々と、闇に浮出して来た。その蒼黒い巨大な虫を思わせる峰には、最初の日、見たような、くすんだ[#「くすんだ」に傍点]朱の火星が、チカチカと遽《あわただ》しく、瞬《またた》いていた。
 カーヴ! 源吉は、窓から乗出して、縞
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