今日は夜汽車の番だ)
源吉は、機嫌《きげん》よく、出まかせ[#「まかせ」に傍点]な唄を歌いながら、松喜亭の方へ帰り始めた。
源吉は、それから、京子を上手く誘い出すと、散歩にいい寄せて
『俺は、今日ここを罷《や》めたんだ、明日は国元へ帰るから、もう二度と逢えそうもない、最後だから一緒にそこまで散歩してくれないか……』
そう、沁々《しみじみ》というと、京子は、すぐ真に受けて
『あら、どうして罷めたの……。じゃ歩きながら聴くわ』
如何《いか》にも驚いたように、いったが、源吉はその顔色に、
(やっと邪魔者がいなくなるのか)といった安堵を読みとって、ふ、ふ、ふと嗤《わら》った。
二人は、散歩をしながら、いつか岩ヶ根の近く、雑木林まで来ていた。
其処《そこ》で源吉は、到頭、そこで京子を殺して仕舞ったのだ。
あとは、時を見計らって、レールに、京子の死骸を置き、自分が列車を運転して行って、ずたずた[#「ずたずた」に傍点]に轢いて仕舞えばいいのだ。
彼は京子の力の抜けたくたくた[#「くたくた」に傍点]な躰を、レールに載せると、――その間は、躰の具合が悪い、というのを口実にして、汽車は、非
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