ッ」という嬉しそうな笑い声が、故意《わざ》とでないか、と思われるほど、誇張されて、響いて来た。彼は、クラクラする眩暈《めまい》を振切って立上るとそのボックスを、グッと睨《にら》んでつき飛ばされるように、松喜亭を出た。
(京子|奴《め》!、畜生ッ)
 そんなことを呻《うめ》きながら、迂路《うろ》つきまわっている中《うち》、源吉の頭の中には、何時の間にか、恐ろしい計画が、着々と組立られていた。
 京子を轢《ひき》殺してやろう、というのだ。
(岩ヶ根の魔のカーヴでやったら、又かと俺を疑うものはないだろう)
 そればかりか、この計画には、或《あるい》はその原因ともいうべき、大きな魅力があった。それは、老人を轢くより若いものの方が、柔かく轢心地がよかった、若い中《うち》でも、娘なんかは一層――と思うとあのムチムチと張切った、京子の豊満な四肢が、ドシンと車輪にぶつ[#「ぶつ」に傍点]かって、べらべら[#「べらべら」に傍点]な肉片になって仕舞う時の陶酔――。骨という骨は、あの楊枝を折るような……。源吉は、ぺろり[#「ぺろり」に傍点]と、乾いた唇を舐めた咽喉がゴクンと鳴ったのだ。
(恰度《ちょうど》、
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