《ふかざわ》の姿で、破られた。
源吉は、限りなき憎悪をいだ[#「いだ」に傍点]きながらも、京子を思い切ることが出来なかった。泥沼のような憂鬱を感じつつも、松喜亭の重いドアーを押さぬ日はなかった。
その日も、薄暗いボックスのクッションに、京子と向い合っては見たが、間《あいだ》の小さい卓子《テーブル》一つが百|尋《ひろ》もある溝のように思われ、京子は冷たい機械としか感じなかった。そして、その気不味《きまず》い雰囲気に、拍車を加えるのは、京子のドアーが開くたびに、ちらり[#「ちらり」に傍点]と送る素早い視線だった。
(矢張り、深沢という奴を待っているんだな)
源吉はむしゃくしゃ[#「むしゃくしゃ」に傍点]した心に、アルコオルを、どんどんぶっ[#「ぶっ」に傍点]かけた。
ギーッとドアーの開いた気配を感じたのは、京子が、(まァ……)と席をはず[#「はず」に傍点]したのと同時だった。
それっきり、京子は、彼の傍《かたわら》へ来なかった。
(深沢のやつ[#「やつ」に傍点]が来たんか?)
源吉は、耳を澄ますと、陰のボックスから、男の笑い声にもつれ[#「もつれ」に傍点]て、京子の「くッくッく
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