遣《や》る瀬《せ》なさに、舐《な》めるように愛撫するのだった。
 然し、何故か近頃、京子は源吉に、冷たいそぶり[#「そぶり」に傍点]を見せて来た。
 勿論《もちろん》、この轢殺鬼と、女王のような、美貌の京子とが、無事に納まろうとは思えない。京子は源吉の列車が、余りに人を轢く、ということに、女らしく、ある不安を持って来たのだろうか。そして、そのポツンと浮いた心の隙《すき》に、第二の情人が、喰い込んだのではないか。
(京子の奴、なんだか変だな……)
 源吉も、時々そんな気持に襲われた。と一緒に、火のような憤激が、脈管の中を、ワナワナと顫《ふる》わして、逆流した。

      五

 それは、源吉の危惧ではなかった。京子は、次第に露骨に、忌《いま》わしいそぶり[#「そぶり」に傍点]を見せ、弦《つる》を離れた矢のように、源吉の胸から、飛び出して行った。
 源吉は、絶望のドン底に、果てもなく墜落して行った。と同時に彼の執拗な復讐感は、何時の間にか、野火のように、限りなき憎悪の風に送られて、炎々《えんえん》と燃え拡がって行ったのだ。
 そうした無気味な、静寂は、何気なく京子のところに訪れた、深沢
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