の具合で、男であるか、女であるか、或は、年寄りか、若者か、又或は肥った者か、痩《やせ》た者かをハッキリといい当《あて》るときが出来るほど、異状に磨《と》ぎすまされた感覚の、所有者となっていた。
彼は、列車に乗組む時、何時も『人でなしの希望』に、胸を膨らませていたのだ。
そして、列車が、あの魔のカーヴに近づくにつれ、そのワクワクするような楽《たのし》さは、いやが上にも拡大されて行った。
だが、音もなくカーヴを廻りきり、冷々《ひえびえ》とした夜風の中に、遠く闇の中に瞬く、次の駅の青い遠方信号が、見えて来ると源吉は
(ちぇッ)と舌打ちしたいような、激しい苛立《いらだ》たしさにみたされた。
(莫迦《ばか》にしてやがる……)
――そこには、一匹の、轢殺鬼しかいなかった。
こうした、轢死人のない日の彼は、待ち呆けを食わされたような溜らない憂鬱だった。そうしてその憂鬱を、京子との糜爛《びらん》した情痴で、忘れようとした。
源吉の性格は、ガラリと変って仕舞った。最初は、あの真綿で頸《くび》を締められるような、血みどろな悪夢から、遁《のが》れようと求めた京子だったのが、今は、その悪夢なき日の
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