それに拍車を加えるように、一ヶ月に一遍、多い時は二遍位までの、死を急ぐ者が、不思議に絶えなかった。
(これじゃ、俺の前にいた奴も、勤まらねェ訳だ)
 源吉も、独りで苦笑いを漏らすことがあった。然し、それは、苦笑いというには、余りに恐ろしいことではなかったか……。
 如何《いか》にもその、軽い苦笑は、源吉の轢殺鬼という資格の表徴であった。
 源吉は、近頃、列車を運転しながらも、ひょい[#「ひょい」に傍点]と気が抜けたような、気持に襲われるのだ。
(どうしたんかな、仕事に馴《な》れちまったからかしら……)
『あッ、そうだ……』
 思わず、口走って、ギクリとあたりを見廻した。
 源吉も、その原因を見極めた時は、フイと眼の前の、暗い影が、頭の中を撫で廻したような、イヤな気持を覚えた。
 その空虚な気持は轢死人のない時の、物足らなさだったのだ。
 然し、それも亦《また》『時間』が拭《ぬぐ》い去って仕舞った。
 源吉は、人を轢き殺して、何とも思わぬばかりか、却て、轢くことを、希《ねが》っていたのだ。
 いや、そればかりか、彼は、多くの人を轢いた経験で、車輪が、四肢を寸断する瞬間に、その音やショック
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