、二つの生首は、ゴロンと転がりながらも、なお、しっかりと密着していた。
 生首と、生首の接吻《せっぷん》!
 恐ろしき深沢の執念!
 タッタ今まで勝負に勝っていた源吉は、ドタン端《ば》で、深沢に、血の復讐を受けたのだ。
 深沢は、それとなく後をつけて来たのか、或は、レールに横たわった京子の死骸に、恋する者の素早い直感で、源吉の計画を覚《さと》ったのだろう。そして、京子との不思議な、愉《たのし》き心中……
(畜生、二人だけで死なして置くものか!)
 源吉は、激しく狼狽した。
(待て、京子。俺も、俺も……)
 闇の中に、ナイフが閃《ひらめ》くと、源吉の躰は、くたくたと生首の上に頽《たお》れ、溝《どぶ》の中に転がり落ちた。
 ……鳴りを静めていた蟋蟀《こおろぎ》が、ジイッジイッと、重苦しい闇の中になき始めて来た。



底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
   2003(平成5)年6月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、一部大振りにつくっています。「岩ヶ根」の「ヶ」は大振りですが、「一ヶ月」の「ヶ」は小振り
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