を得《う》るには、あの血みどろのレールの上に、呪われたカーヴの上に鋼鉄の列車を操つらなければならなかった。殆《ほと》んど、必然的に――倉さん等、先輩の言葉を信ずれば――心にもなき殺人を行わなければならなかったのだ……。
 そして、それは事実だった。最初の轢殺事件から、二週間もたった夜《よ》、源吉は、又轢死人を出した。今度は、若い頑丈な男だったが、この前と同様、ドシンとも、ビタビタともつかぬ、雑巾を踏みにじったような、異様な、胸の中のものを、掴《つか》み出す音と、一緒に、男の躰はずたずたに轢き千切《ちぎ》られて仕舞ったのだ。
 今度は、周章《あわて》ずに、直《す》ぐ下りて見たが、何んともいいようのない凄惨《せいさん》な場面だった。
 その中でも、どうしたものか、車輛《しゃりん》の放射状になった軸の一つにその男の掌《て》だけが、ぶら下っていた。源吉は、覗《のぞ》き込むように見て、思わず「わッ!」と叫ぶと、よろよろっと蹌踉《よろめ》いて仕舞った。蒼黒《あおぐろ》い掌だけの指が、シッカリと軸を掴んでいるのだ、手首のところからすっぽりともげ[#「もげ」に傍点]て、掌だけが、手袋のような恰好で……
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