んでいるのかを見てやろう――と思いついたからであった。も一つ、そういう密航を簡単に決心させたのはどうやら先刻《さっき》この船にいた、あの美少女のせいでもあるらしかったが……。
 そして、何分ぐらいたったであろうか。すくなくとも十分とはたたなかったようであるが、中野は、海風が妙にひんやりして来たのに気づいた。そういえば、かすかではあるが、この船は震動しているようである。
(おや、動き出したのかな……)
 と思っているうちにも、スピードはぐんぐん上《のぼ》って行くらしかった。いまにも吹き飛ばされそうな風圧が加わって来た。
 息も出来ないような風圧に慌てた中野は、つい二三歩ばかり離れた艙口《ハッチ》に、やっとのことで飛つくと、無我夢中で船内にころげこんだ。
 ほっと息がつけた。この船は、想像も出来ないような猛スピードで駛《はし》り出したらしい。
 と、その中野が転げこんだ物音を聞きつけたのか、船室のドアーが開くと、ひょっこり顔を出したのは、あの美少女だった。
「あら……」
 向うでは、其処の壁に靠《もた》れて、肩で息をしている中野を見ると、ひどくびっくりしたらしかった。
「あ、さっきは失礼し
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