地図にない島
蘭郁二郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)葦簾《よしず》張り
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)赤|蜻蛉《とんぼ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のっけ[#「のっけ」に傍点]
−−
一
痛いばかりに澄み切った青空に、赤|蜻蛉《とんぼ》がすーい、すーいと飛んでいた。
「もう終りだね、夏も――」
中野五郎は、顔馴染になった監視員の、葦簾《よしず》張りのなかに入りながら呟いた。
「まったく。もうこの商売ともお別れですよ……」
真黒に陽にやけた監視員の圭さんが、望遠鏡の筒先きに止まっている赤蜻蛉を、視線のない眼で見ていた。
夏の王座を誇っていたこのK海水浴場も、赤蜻蛉がすいすい現れて来ると、思いなしか潮風にも秋の匂いがして来た。波のうねりは、めっきり強くなったし、びっしりと隙間もないほど砂浜を彩っていた、パラソルやテントの数が、日毎に減って行った。いままでが特別華やかだっただけに、余計もの淋しかった。
「どれ……、又かしてもらうかな」
「…………」
圭さんは、一寸《ちょっ
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