かすると、その理由のために、十五六年もの長い間わざと全く消息を絶っていたのかも知れない。
(その理由は――?)
 無論わからなかった。
 中野は、もう一遍行って、それだけでも訊こうと思った。先刻《さっき》は傍らにあの少女がいたので、叔父は余計に話せなかったのかも知れない。
 彼は午飯をすますと、久しぶりにきちんと夏服を着込んで、磯づたいに歩いて行った。
 白亜船は、先《さ》っきのままに浮んでいた。シーンと静まりかえって、人声一つしてはいなかった。
 中野は、足音を忍ばせるようにして、船に上《あが》って行った。
 上って行って先ず気づいたのは、その足ざわりなどから察すると、驚いたことには、この船全体が、ジュラルミンか何か、とにかくそういった種類の軽金属で、総てが造られているらしいことだった。
 何処かで、時計のように規則正しく機械の音がしていた。しばらく耳を澄ましていたが、それ以外には、何一つ聴きとることが出来なかった。
 中野は、立止ったまま考えていたが最初の考えの、叔父を探すのはやめて、そのまま手近にあった救命具入れらしい箱の蔭に、体をかくしてしまった。
 叔父が一体どんなところに住
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