でも、いやあね、ぱったり道で会ったりすると、どきっとするわよ」
「そうでしょうね、しかしそれ位は安い税金だ――」
「まあ……」
彼女は、薔薇の葩《はなびら》のような頬をして、わざと向うを向いてしまった。
六
叔父の案内で、中野は四季の花の咲き乱れる花園を抜けて、研究室の方に進んで行った。
硬質|硝子《ガラス》で造られている研究室の採光は、申分なかった。地上には一階しか出ていなく、平家《ひらや》のように見えたが、実は地下に数十階をもっている広大なものだった。地階の部屋には、全部冷光電燈がつけられてあった。冷光電燈はエネルギーを百パーセント光として使っているもので、普通の電燈のように、大部分を熱に消費してしまい、僅かにその何パーセントかを光として利用するものとは比べものにならないほど高能率のものだった。その上温度と湿度を調節され、クリーニングされた空気が爽かに流れている。ただ一つ、何時の間にか慶子が姿を消してしまったのが残念であったが……。
叔父はそんなことには一向にお構いなく、中野に振りかえる余裕も与えないほど、どんどん進んで行った。
最初に押したドアーには、
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