第二五六号室と書かれた札が下っていた。そして、ドアーを開けると、いきなり足元に慕い寄って来た小動物があった。
思わず後退《あとずさ》りしながら確かめると、それは小犬ほどしかないけれど、間違いもない象なのだ。アッと思って眼を上げると、その眼に今度は小牛ほどもあろうかと思われる化け物のような蟋蟀《こおろぎ》が写った。そのほか色々なものがいたようである。が、それらを見直す前に、その蟋蟀が戸板のような羽根を擦り合わせ、鼓膜のしびれるような、破《わ》れ鐘のようなチンチロリンをはじめたのである。チンチロリンをはじめたところを見ると、それは蟋蟀ではなく、松虫であったようだが、そんなことは、たしかめる暇がなかった。中野は、顔色をかえてドアーの外に飛出してしまっていたのだった。
「どうしたい?」
中野は、まだ息が切れていた。あの犬ころのような象の、貧弱な細い鼻で舐められた足のあたりが、まだむずむずしているようだった。
「なんです、この化け物屋敷のような部屋は……」
「一口にはいい憎いが、とにかく物の大きさというものの疑問を研究している部屋だよ、つまり、兎なら兎、鼠なら鼠と、大体その大きさは一定してい
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