れて上陸第一歩を印した中野五郎は、先ずのっけ[#「のっけ」に傍点]から驚かされどぎも[#「どぎも」に傍点]を抜かれて眼を見張った。
科学の島というからには、無風流極まる、コンクリートの工場地帯を思わせるような風景を想像していたのだか、一歩、人工蜃気楼の障壁を這入《はい》ると、其処に、忽然と繰展《くりひろ》げられたのは、言葉通り百花繚乱と咲き乱れた花園のような『日章島』だった。南国の明るい光りの中に、桜も藤も、グラジオラスもダリアも、女郎花《おみなえし》も桔梗《ききょう》も……四季の花々が一時に咲き競っている様は、一寸常識を通り越した見事さだ。そしてその向うに、夢のような美しい線をもった硬質硝子製の研究室が続いていた――。
が、それにも増して驚いたのは、迎えに出て来た十人ばかりの少女で、それが揃いも揃って、まるでハンコを捺《お》したように、彼の傍で微笑している小池慶子とソックリ同じなのだ。
双生児《ふたご》というのは、少しは滑稽味もあるけれど、しかしソックリ同じ貌《かお》かたち体つきの少女が、ずらりと十人も並ばれて見ると、中野は何かしら圧迫感を覚えるばかりだった。
「一体これは……
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