こだよ」
「でも見渡すかぎりの海で……」
「島は隠してあるのさ、俗物の近寄らんように」
「島を隠してある?」
「そうだよ、つまり蜃気楼、人工蜃気楼で一面の海のように見せかけてあるんだ」
「ほう……」
「これなんか一寸面白いと思うね。例えば敵機が大編隊で東京を空襲に来る。防禦の飛行機が舞上るが、とても全部撃墜というわけには行かない。半数位は薄暮の東京上空に侵入して毒ガス弾、爆弾を雨霰《あめあられ》と撒きちらし、東京全市は大混乱の末、まったくの廃墟と化した――、と思うと、実はこれは人工蜃気楼で東京全市を太平洋に浮べてあっただけだから、敵は命がけで遠い所を爆弾を運んで、なんのことはない太平洋に爆弾を棄てに来たようなものであった……とはどうだ。面白い筋書じゃないか」
 細川三之助は、なかなか饒舌だった。
 なるほど面白い話だけれど、しかし中野五郎は、いま後《うしろ》のドアーを細目にあけて覗きこんだ慶子の眼と、人工蜃気楼の奥にかくされた、まだ見ぬ島の様子の想像とに、すっかり気を奪われて、うわの空であった。

       五

 人工蜃気楼の奥に秘められた科学の島『日章島』に、小池慶子にともなわ
前へ 次へ
全28ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング