まい。人類の達した最高の速度の中に、今お前はいるんだ。これほどハッキリした話はあるまい」
「…………」
「一秒間に三百四十米という音と同じ速さは、ほぼこの地球の自転の速さに匹敵する速さだ。だからもしこの船が地球の自転と反対の方向に駛《はし》ったら、永劫に夜というものを知らないでいることが出来る……、恐らく空気中では最高の速度だといっていいだろう」
「すごいもんですね……それにしても一向に震動がないじゃありませんか、波なんか問題にしないんですか」
「波? はっははは」
叔父は始めて笑って
「冗談じゃない本当に海の上をすべっていたらとてもこんなスピードは出ないよ、この船は実際は海の上五米ばかりの所を飛んでいるんだ、船の形をしているのは結局人の眼をさけるためさ……」
そういっているうちに、急にスピードの落ちて来た感じがすると、ゆたりゆたりと波のうねりも伝わって来た。
「着水したんですね」
「うん、島についたんだ」
「どんな島です……」
中野は窓際に馳寄ると、外を覗いて見た。しかし、其処は、右も左も満々たる大海原の真只中で、針でついたほどの島影も見えない――
「まだ、ですね」
「いや、そ
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