ね、しかしそんな『電力放送局』があるんですか」
「あるわよ、あるから動いているんじゃなくて……」
「……成るほど」
「あなたの叔父様の発明よ」
「あ、叔父、細川の叔父の――」
「ええ……」
「ど、どこにいます?」
「あちらの機械室に……ご案内しましょうか?」
「いや、あとでいいですよ――。僕は中野五郎という者で」
「さっきお聞きしましたわね、ほっほほほ、私の名はもっと憶えいい名よ、小池慶子」
「小池慶子――さん」
「ええ、逆《さかさ》に読んでもコイケケイコ……、憶えいいでしょ、ほほほほほ」
まるで屈託とか含羞《はにか》みとかは、何処にもないような明朗娘だった。
四
見事な白髪になった細川三之助は、船長室のような豪奢な部屋で、独り大型デスクに倚《よ》っていた。
「あ、お前は……」
彼女に導かれて入って行った中野を見ると、思わず腰を浮かしたようだったけれど、すぐ又、表情を顔から拭い去って
「どうして此処へ――」
「うっかりしている間《ま》に船が動いてしまっていたんです……、それに、一寸慶子さんと話していたもんですから」
「困るねえ……もう陸からは一千|粁《キロ》も離
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