れているんだ。今更かえっている暇はない」
「一千粁――? そ、そんなに……」
「そうだよ、この船はお前たちの考えている飛行機よりずっと速いんだ、『音』と同じ位の速度が出るんだからね、一秒に三百四十|米《メートル》としても……もう三十分にもなるから九十一万四千米は来ている――」
細川三之助は、こんどは慶子の方に眼をやった。
「こんな男が乗ったのを、なぜもっと早くいってくれないんです?」
「……うっかりしてましたわ」
彼女は、恐らく生れてはじめてらしいような照れ気味な顔をすると、ぴょこりと頭を下げて部屋を出て行ってしまった。
「――困ったね、他人《ひと》には絶対見せられない所へ行くんだが」
叔父は、額に深い竪皺《たてじわ》を寄せ部屋の中をぐるぐる歩きはじめた。この癖も中野の記憶にあった。叔父は何か考え事があると昔もよくそうしていた。
「一体、何処へ行くんですか」
「一体何処って、まあ、仕方がない、太平洋上のある島だよ、無論地図にもない島だ」
「そんな島があるんですか」
「現にあるんだ、勿論普通の航路からはずっと離れたとこにあるし、低い島だから余程そばに来てもなかなかわからない」
「そ
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