していたのです。
景岡秀三郎は殺人を計画していたのでした。
実は妙な話ですけどそんな差し迫った殺人の必要もなかったのですけど、……無い事もありませんでした。というのは景岡秀三郎は、こんな廃頽趣味であることからも解るようにとても妙に偏屈なとこがあって、一度斯う――と思いつめたら蛇のように執拗なところがあるのですが、その気持が、この素晴らしいトリックを思いつくと同時に、急に燃え上って来たのでした。
美しき従妹ハトコの父石崎源三を殺そうというのです。理由は――誠に簡単な事なのですが、いまいったような景岡の性質では、充分殺人に値していたかも知れません。秀三郎はハトコを愛し、そして、美しきハトコも彼を愛してくれる……というのに彼女の父石崎源三が景岡の奇矯な行動からおいそれと許してくれない。という理由なのですが――。だが秀三郎はもうタマラナクなってしまったのです。
殺人の現場に一口の短刀が遺棄されている、見るとそれにはアリアリと、指紋が残っているので被疑者は一人残らず指紋をとられる、勿論石崎源三の家に屡々《しばしば》行った景岡の指紋も採られるに違いない――だが――一人として該当者がない……
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