になったのでした。
で、一番始めに眼についたのは、矢張り一番近いところにある『足の裏』です。足の裏にもこんなに種類があるものか――、秀三郎はなんの気もなく足の裏を観察し始めて、思わず驚嘆の声を上げたのです。各人各様、とはよくいったもの、馴れるに従って足の裏をみた丈で、いま入浴しているのは誰々――とハッキリいいあてることが出来るほど、夫々《それぞれ》に特徴を持っているのです。
扁平足のもの、地踏《つちふ》まずのハッキリしているもの、その地踏《つちふ》まずの凹んだところに、痩せた人で腱の出る人、痩せていても腱の出ない人……親指が中指より長い人、短かい人、指の揃っている人、開いている人……
中でも、これは景岡秀三郎の大発見だと思われるのは『足の指紋』です。これは手の指紋と同様、十本が十本皆同じの人、というのは彼の経験では一人もないのでした。
凡《おそ》らくこれは大発見、と同時に又、景岡秀三郎の身を危く滅ぼす基《もと》でもあったのです……。
というのは、その発見をすると、景岡は、もういままでの熱心な観察をフッツリとやめてしまって、うっとりと寝椅子に寝ころんだ儘、しきりに何か考えごとを
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