りは、この為にこの景岡浴場は充分過ぎるほど採光に意を払って建てられているのですけれど、それでも妙に蒼味がかった、何んともいえない色合を見せていました。恰度――なんていいますか、あの厚いガラス板を縦に見た時に、深淵の澱んだようなモノスゴイ蒼さを見せますけど、一寸、あの感じ……とでもいいましょうか。
さて、景岡秀三郎はその密室に這入りますと、いつもさっきの寝椅子にゴロンと横になるのです。斯うすると、恰度眼の前二尺ばかりのところへ浴槽の底の硝子板が来るのでした。
そうして楽々と寝そべって、タバコをふかし[#「ふかし」に傍点]乍ら、その世にも奇妙な、滑稽極わまる、徹底的曝露舞踊を、独《ひと》りニヤニヤと眺めている――この彼自身の姿に彼自身、狂いそうなウレシサ、とてもたまらないタノシサを感ずるのでした。
三
この頭の上を舞《おど》り廻る裸形のダンサー……ああ、とても罪なことに、その中には○○も○○もあらゆる階級の人が、何んにも知らずに舞《おど》っているのです……に放心したような月日を送っていた景岡秀三郎も、興味的にのみ眺め暮していたのが、いつとはなく観察的にそれ等を見るよう
前へ
次へ
全13ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング