無い筈だ……それは足の指紋だもの。どうだ、実に素晴らしい。
ナマジ指紋(?)あるが為に、この事件は迷宮入りになって仕舞うに違いない。如何にも面白い――と同時に日本的なトリックだ、外国のように沓下を穿《は》き、靴を穿《は》いていたんではこんなトリックはなかなか現われまい……。
『巨大な指紋を遺《のこ》して犯人蒸発! 推察するに相当大男ならん――』などという新聞紙のセンセイショナルなタイトルまでもう頭の中にちかちかとひらめくのでした。
(面白い、殺《や》ってやれ)
秀三郎は、喫《す》いかけたタバコをポンと地下室の向うに抛って、薄暗の中にポーッと赤い火の灯《とぼ》るのを見乍ら、卓子に手をついて、ウン、と寝椅子から起き上った時でした。
(アッ――)
景岡秀三郎は、思わず愕然としたのです。卓子についた手の指を御覧なさい、その指の先は、てんでばらばらで、とても足の指のように揃っていません。ソレニ、一緒に平面上に五本の指の先きを同時に押すことが出来ないのです。四本の指の先きを、どうにか揃えて押すと、親指はハラを押して仕舞う――。バカバカしいようだが、重大なことです、と同時にそれに、いまの今まで
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