気がつかなかった――のです。
 こんなことでは、まだ他《ほか》にどんなミスがあるか、知れないぞ……。
      ×
 景岡秀三郎は、もうすっかり殺人がイヤになって仕舞いました。熱し易い一方、とても冷め易いのです。考えて見れば何もセッパ詰った訳でもなし……こうなると彼のぐずぐずの心は二度と振い立たないのでした。(こんなトリックを思いついたばかりに、却って身を滅ぼすところだった――)
 秀三郎は、又ごろんと寝椅子にころがると、チェリーの缶に手を差しのべたのでした。

      四

 頭の上の浴槽の中には五六人の女たちが、立ったり屈《かが》んだりして、いい気持そうに浴《ゆあみ》しています。横の腰掛けに腰をかけている女のお尻が、お供餅の様に尨大で、よく見ると月世界の表面のように、ポツポツの凹凸があったり……、銅像を下から覗《のぞい》た時のように妙に背丈《せい》の高さの判別がつかなかったり……、時々指環を篏《は》めた手が、腿の辺まで下りて来て、ぼそぼそと泡を立て乍ら掻いたり……。そしてそれらの手の間○○○、○○○を白い手拭がふらふらと、又、ひらひらと、オットセイのように泳ぎ廻るのでした。

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