演』という、安っぽい見世物から思いついたのです。
その見世物は――御承知でもありましょうが――、硝子で水槽を造って、その中に岩だの、海草だのを、ごたごたと配置して、海中らしく設《しつ》らえ、そこへ半裸体の海女が、飛込んで鮑を取って来る。という他愛もないものですが、あの真赤《まっか》な湯文字を、巧みに飜がえして、眼の前に泳ぎ寄る蒼白い水中の裸女の美は、彼景岡秀三郎の頭の中の、総ての感覚を押しのけて、ハッキリと烙印されて仕舞ったのでした。
――そして、其処《そこ》に、海女の代りとして、素晴らしい全裸の肉体を、泳がせたら……。
(何んとスバラシイ美の構成であろう)
景岡は夢みるように、手を振って、幻を掴み乍ら、激しい鼓動に、息を弾ませるのでした。
×
まこと、其の期待は、見事適中したというものです。景岡浴場、開業第一日からの盛況は!
全く、この下町K――には初めての豪洒《ごうしゃ》な浴場だったのです。あのライトグリーンのタイルに足を投出して、明るい湯霧《もや》を見詰め乍ら、うっとり[#「うっとり」に傍点]とする気持は、そして晴れた高空《たかぞら》に、パンパンと快よく響く
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