|群《むれ》に、眼をやった時でした。
音もない風が、梢から転び落ちると、恰度《ちょうど》跼み込んだ女生徒のスカートを、ひらりと[#「ひらりと」に傍点]反《かえ》したのです。ハッとした秀三郎は、僅かの間でしたが、眼頭《めがしら》の熱くなるのを感じました。
今、こうして瞼を閉じても、その搗《つ》きたてのお餅のようなふっくり[#「ふっくり」に傍点]とした太腿へ、真黒なガーターが、力強く喰込んでいるその美しさに、吾れ知らず鼓動が高まるのです。
長ずるに従って、次第に瞼の裏には、様々な美しい肉体の粋が、あるいはくびれ[#「くびれ」に傍点]、或はすんなり[#「すんなり」に傍点]と伸びて、数を増し、追っても、払っても、なよなよと蠢めき、薄く瞼を閉じるとそれらは、青空一杯に、白い雲となるのでした。
斯《こ》うした景岡の眼には、自然の草木はなんらの美をも齎らしませんでした。そして肉体の探窮美にのみ、胸を摶《う》たれるのです。
その美への憧れは、案外急速に実現されました、というのは、景岡が大学を出て間もなく、僅かの間に、続いて両親を亡い、それと同時に、少なからぬ遺産を受継いだからです。
そして
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