来ると、秀三郎は、ギクンと咽喉《のど》につかえた心臓を、一生懸命に、肩をすぼめ[#「すぼめ」に傍点]て押え乍ら、もう眼は泪《なみだ》ぐんで仕舞《しま》うのでした。
こんな自然の悪戯《いたずら》は、秀三郎を、尚内気にして仕舞うと同時に、露出嫌悪症――裸体嫌悪症――という変窟沼の中に投げ落し、そして、それは年と共に、いよいよ激しくなって、自分自身の体でありながら毛むくじゃら[#「むくじゃら」に傍点]な腕や胸を見ると、ゾッと虫酸《むしず》が走るのを、どうすることも出来ませんでした。
――そのくせ、というより、寧ろその反動として、白い滑《なめ》らかな、朝霧を含んだ絹のような、はり切った皮膚を見る度に、彼は頬を摺りつけ、舐めてみたり、或は、そっと[#「そっと」に傍点]噛んでみたいような、激しい憧れを感ずるのです。
煙のように、淡く飛び去った幼ない思い出の中に、今でも網膜に焼付けられた、一つの絵があります。――それは小学校の校庭でした。
女生徒の体操の時間で、肋木《ろくぼく》につかまった生徒達が、教師の号令で、跼《かが》んだり起きたりしています。二階の窓ぎわにいた景岡秀三郎が、フト、その一
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