事でしょう。元気よく馳け廻る大勢の友人を、寧ろ、驚異の眼で見とれ乍《なが》ら、校舎の蔭にポツンと独《ひと》り、影法師のような秀三郎でした。――そのくせ、夢みるような瞳は、飽くなき巨大な幻想を疑視《みつ》めていたのです。
 この風変りな少年、景岡秀三郎の、最も恐れたのは、時々行われる体格検査でした。大きな講堂の中で、ピチピチした裸体の群像の中に青白い弱々しい体を曝《さら》すという事は、消入《きえい》るように苦しかったのです。
(痩っぽちだなァ……)
 侮蔑にみちた言葉が、裸になって、はしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]切った少年達の、何んでもない会話からさえ、浮び出して来るのでした。
 その上、景岡秀三郎は、少年としては珍しく、毛深《けぶ》かかったのです。腕や脚には、もう生《は》え際《ぎわ》の金色な毳毛《うぶげ》が、霞のように、生えていたのです。
 秀三郎は、友達の浅黒い、艶々《つやつや》した肌を見る度に、自分の毛深かさに対して、子供心にも、激しい嫌悪を感ずるのでした。
『おや! すごい[#「すごい」に傍点]毛だね……』
 体格検査の時など、そんなことをいい乍ら、友達が、珍らしそうに近寄って
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