手紙を度々|頂《いた》だきましたのは、よく存じておりますけど……何せ、同じ家に居りながら、わたしもちかごろは、まるで箒吉様にお逢いしませんし……』
(妙なことをいう)
私の口の先まで、出かかった言葉を、ばあや[#「ばあや」に傍点]は押しかえすように
『何せまァ、わたしは心配で心配で、それは前から変った御気性の方ではございますけど、それがまァこの頃は、一体何をなさって居られるのやら、わたしにも一向わかりませんので』
『へえ、じゃ家にいないので――』
『いいえ、それが貴方、ずっとお部屋にいられるようなんですけど、そのお部屋が――ええなんと申し上げましょうか……その座敷牢……とでも申し上げたいような……』
『自分で好んで、はいってるんですか』
『滅相もない、なんでわたし共が旦那様を座敷牢などに――それは御自分でお造りになったので、わたしが御食事を差し上げますのは、戸に小さな窓が開いておりまして、中から箒吉様がお開けになって受取られるほか、覗くこともお許しになりませんのでございます』
(そんなことが……。正気の沙汰じゃないぞ)
『へんな話ですねェ、で、いまもその部屋にいるんですか』
『さあ、
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