蝕眠譜
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)聊《いさ》さか

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)度々|頂《いた》だきました

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ばあや[#「ばあや」に傍点]が、
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      一

(一体、どうしたのだろう……)
 私は、すくなからず、不安になって来た。あの親友黒住箒吉がまるで、ここ二三ヶ月というもの消息不明になってしまったのだ。
 私が、自分から「親友」などと呼びかけるのは、聊《いさ》さかキザだけれど、でも、彼には、あの変屈な金持黒住箒吉には、友だちというものは、この私一人しかいない筈なのだ。
 黒住と私とは二代続きの、おやじから受けついだ交友であった。彼の父が家に遊びに来た時など、いつも彼の変屈を心痛して、
『春ちゃん、箒吉はアンナ風だけれど、よろしくお願いしますよ……時々お遊びに来て下さい――』
 と、いかにも父親一人の家庭らしい、優しい、思いやりのある言葉で、私を誘ってくれた顔を、フト思い出すのである。
 いまは、もう彼の父も、私の父も既に亡くなってしまって、第
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