二代目の交友に引つがれてしまった。そして時々私は箒吉のことを偲い出す度に、手紙のやりとりなどして、死んだ彼の父に、お義理の端を済ませていたのだが。――
彼は、なかなか自分から私に呼びかける男ではなかったけれど、私の出す手紙には、きっと、木霊《こだま》のように、返事を寄来《よこ》すのだった、彼もたしかに寂しいには違いない、彼も決して悪い男ではない、ただ、世の人との交際の術を全然持ち合せていないのだ――と、私は思っていた。
――それが、茲《ここ》二三ヶ月、いくら手紙を出しても、いくら安否を問うても、まるで梨の礫《つぶて》であった。
私は、不安になって来た、いままでが、私の手紙に対して几帳面な黒住だっただけに、何かしら黒い翳を感ずるのである。(一体、どうしたのだろう……)
二
私は、五時を合図に退社《ひけ》ると、その足で東京駅にかけつけしばらく振りで省線電車にゆられ始めた。
そして、黒住の住む西荻窪の駅に、はき出された時は、もう空の茜《あかね》が薄黝《うすぐろ》く褪《あ》せた頃だった。
燦々と輝く電燈を吊した新興商店街を抜けると、見覚えの道が、黒く柔らかに武蔵野の
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