黒住はベットに腰を下ろすと、私に椅子をすすめながら
『さっきは、何しろ外だったんで、ゆっくり話も出来なかったけど、僕は君がこんなヘンなことを始めた理由を……といわれた時は、思わず僕の心の底をみすかされたような気がしたんだ』
とぽつりぽつり話し出すのであった。
『実際、僕もはじめは、あの寝覚めの妙な気持に興味を持ってやったんだけど、それが、最近そうとだけはいわれなくなって来たんだ。それは一寸、なんだけど、新らしい恋人が現われたのだ』
(恋人――)
私は、あまりの思い構けぬ言葉に、呆然としてしまった。
『寧ろ、祝福すべきじゃないか――』
『いや、それがこの世のものではないんだ』
『――君は一体、僕をからかってるのか』
『いや失敬失敬、僕のいい方が悪かった、――でも、一寸適切な言葉がなかったもんだから……』
彼は寂しそうに笑うと、目を伏せてしまった。
私は何かしら異様な気持に襲われ乍ら
『君ハッキリいってくれたまえよ、もしそのことが重大な要件であり、僕に手伝いの出来ることなら遠慮なくいってくれたまえ、及ばずながら、なんとかしよう……』
『ありがとう、君がそういってくれるのは、トテ
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