とは……じゃあ、一緒に家へ来ないか――』
彼はギクリとしたように立ち上ると、もう出口の方へ、あゆみはじめた。
五
私は、その痩せ呆うけた黒住の肩口を見詰め乍ら、彼について行くより仕方なかった。
(いい機会があったら、そんなバカなことを止めてやらなけりゃ……)
黒住も、私も黙々と歩きつづけた。
×
又黒住の家へ、私達がついたのは、もう九時も廻っていたろうか……でもばあや[#「ばあや」に傍点]に一寸挨拶をし、彼の部屋にはいって固く戸を閉し、間もなくばあや[#「ばあや」に傍点]がお茶をあの小窓から渡したきり、私達二人は、全然この世の中から隔離されてしまったのだ。その部屋は八畳位の広さで、窓は一ヶ所もなく、真白い箱のようなものであった。
その中に、大きな寝台が一つ、書物のとりちらかされたテーブルが一つ、椅子が一つ、タッタそれだけの世界であった。その外目につくのは部屋のつきあたりにある一間位の押入とテーブルの本の間に挟まって、かすかにあゆみ続ける時計位のものであった。
(この間の時計の音は、これか――)
私はそんなことを思いながら、部屋の中を見廻していた。
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