されたというぐらいの、つまり近代病なんだから研究も遅れているわけさ、日本に起ったのは、つい十年ぐらいじゃないのかい……、それも、二年ぐらいの周期で蔓延《まんえん》するっていうが、今年に特に物凄いからね、凉風《すずかぜ》が吹いて下火になるどころか、こんな真冬になっても物凄い発病者があるんだからな、実際の数字を発表したらびっくりするくらいあるんだ」
「発表しないのかい」
「発表しない、というわけでもあるまいが、それが○○関係の工場地帯に特に多いんだし、……秘密だけれど、このために職工が全滅に近い下請工場も一つや二つじゃない」
「矢ッ張り過労――からかな」
「いや、そればかりじゃないらしいね、或る工場では最初の発病者があってから、あわてて五時間交代にして体を休めさしたんだが、それでも仕事中に、ばたばた倒れて眠ってしまう者が続出した、っていうからね」
「ふーん、相手がわからないだけに気持が悪いなあ、まあ、あんまり東京に出て来るのは止そう……、しかしね、東京ばかりじゃないらしいぜ……」
喜村が、そういいかけた時に、傍らでハルミが抱いていたポケットテリヤが、急にくーん、くーんと泣き出した。
「あ
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