睡魔
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)彼奴《あいつ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一寸|鬱憤《うっぷん》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
−−

       一

「おやっ? 彼奴《あいつ》」
 村田が、ひょっと挙《あ》げた眼に、奥のボックスで相当御機嫌らしい男の横顔が、どろんと澱《よど》んだタバコの煙りの向うに映った――、と同時に
(彼奴はたしか……)
 と、思い出したのである。
「君、あの一番奥のボックスの男にね、喜村《きむら》さんじゃありませんか、って聞いて来てくれないか、――もしそうだったらここに村田がいるっていってね」
「あら、ご存じなの……」
「うん、たしか喜村に違いないと思うんだが……」
「じゃ聞いて来たげるわ」
 ハルミが、べっとりと唇紅《くちべに》のついた吸いかけの光《ひかり》を置いて、立って行った。
 と、すぐに、聞きに行ったハルミよりも先きに、相当廻っているらしい足を踏みしめながら、近づいて来たのは、矢ッ張り中学時代の級友喜村謙助に違いなかっ
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