だよ――」
「よろしく……」
 洋装のぴったり合った、香油に濡れたような瞳《め》をしていた。
「村田君だ。知らなかったかね……、今、今なにしてんだっけね君は」
「まだいわないよ」
「ああそうか」
 村田と美都子が笑ってしまった。
「こういうところで、やってんだが」
 村田の出した名刺を見て、眉を寄せた喜村は
「……どういうことをしてんだい」
「今のとこ、さっき君のいった嗜眠《しみん》性脳炎の問題をがんがんせめられてんだがね」
「ははあ、そういう研究所かい、あんまり聞かない名前だと思ったが、ちょっと伝染病研究所みたいなもんだね」
「まあ、そういったもんだ」
「で、どうだい――」
「どうだいって、全然わからんよ、まだ病原体もわからないんだから手がつけられない」
「しかし、新聞じゃ相当騒いでるね、だんだん活字が大きくなるし」
「そうなんだ、それだけに余計やいやいわれるんだよ」
「とにかく死亡率が非常に高いからね……、予防っていうのは、矢張り過労しないようにとか、日光に直射されないようにとか、そういったぐらいかね」
「まあ、そうだろうね、心細いが――。だいたいこの病気は一九一七年にはじめて発見
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