、小便かな。君、おろしてやれよ、おい、君ったら……」
 ハルミは、まだ抱いていた。
「ねえ、一寸――、一寸――」
 見かねた美都子が、その小犬を抱きあげてやると、俯向《うつむ》いていたハルミは、そのまま顔も上げないで、両手をだらんと垂《た》らしてしまった。
「あらッ」
「寝ちまった?」
 三人とも、ぎょっとした。
 静かに小犬と遊んでいたと思っていたハルミが、いつの間にか華やかなナイトドレスのまま、椅子のなかにぐったりとしている。顔を俯向けているのが、一寸見ると膝の上に小犬をあやしているように見えたのだ。
「おい、おいったら……」
 村田が肩をゆすったけれど、ハルミは一向に眼を覚ましそうもない。
(眠り病――。死か、直ってもバカか)
 村田も喜村も、相当廻っていた酔が、すーっと足元から冷たい床に抜けて行った。
 それでも、医者の端《はし》くれらしくハルミの脈を診《み》たりしていた村田は
「いけねえ、眼筋痲痺《がんきんまひ》を起してる――」
 そういうと、あわてて奥の洗面所の方に、手を洗いに駈けて行った。
 床に下された小犬は、別に小便をするでもなしに、くーん、くーんと泣きつづけていた。
前へ 次へ
全23ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング