訳がわからんね」
「泥棒かしら……」
「まさか」
納屋の二階を見上げて、ひそひそ話し合っていると、突然ゲンのけたたましい吠え声――、続いて誰かが床板に叩きつけられる様な音にまじって、鋭い怒声罵声ががんがん響き、えらい騒ぎになって来た。
「おーい、村田、どうした」
喜村が、納屋の入口に首を突込んで呶鳴った時だ。
「畜生!」したたかに撲られた音がすると、いきなり眼の前に、ゲンと絡み合った黒い洋服の男が落ちて来た。
続いて村田の息を切った声が二階から
「喜村。逃がすなッ!」
「よし!」
手元にあった藁縄を掴んで、きっと身構えた。しかし落ちて来た男は、逃げるどころか打ちどころが悪かったらしく、すでに眼を廻してしまっていた。
なおも敦圉《いきり》たっているゲンを離すと、ともかく後手《うしろで》に縛り上げて
「おーい、村田、大丈夫か」
「大丈夫――、喜村、ちょっと来て見ろよ」
掛梯子の上から覗いた村田の顔は、左の眼のあたりが薄痣《うすあざ》になっていた。
「相当やられたな……」
「なあに……。これだ、これを見ろよ」
村田の指さすのを見ると、その納屋の二階の薄暗い片隅に、大型トランク位
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