の鉄製の箱が置かれ、むき出しの天井を匐《は》っている配電線に結ばれていた。
 村田は、その電線を引千切《ひきちぎ》りながら
「これだよ、これが眠り病の正体だ――」
「えッ、こ、これが眠り病の――」
「そうさ」
「そうさ、って君、これはただの箱じゃないか、眠り病というからには何んか……、それともこの箱が眠り病の病菌の巣かなんかで……」
「いやいや、これは機械だよ」
「機械――?」
「そうさ、いま東京中に猖獗《しょうけつ》している嗜眠性脳炎を病理学的にやろうとしたのが間違いなのさ、思えばずいぶん無駄な努力をしたもんだ、いくら顕微鏡なんかを覗いたって病原体なんか見つかる筈がない」
「というと」
「つまり、これは大陰謀なんだ、帝都を眠り病の死都と化さしめようという、恐るべき大陰謀だってことが、タッタ今わかった……」
 途端に、納屋の外で、美都子の悲鳴が起った。慌《あわ》てて駈下りて見ると、縛り上げられた男が、やっと気づいたと見えて、むくむく動き出しているところであった。
 早速自転車を馳《は》しらせて、一応警察の方にその男の始末を頼んで置き、意気揚々とした村田を真中に、喜村の家にかえって来た。
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