犬はなんていったっけね?」
「なんだい急に――、ゲンのことかい」
「そう、それそれ、それとあのポケットテリヤを借してくれないか」
「借してくれ――? どうしたんだい一体」
「いや、急に思いついたことがあるんだ、眠り病だ」
「しっかりしてくれよ、なにいってんのかさっぱりわからんじゃないか……」
「……、そうか」
村田は、やっと苦笑すると
「とにかく、その二匹を借してくれたまえ、東京に連れて行って研究したいんだ」
「研究材料にはもったいないよ、そんなことなら野良犬で沢山じゃないか――」
「いや駄目だ、あの二匹にかぎる」
「無理いうなよ……」
「無理なもんか、別に殺す訳じゃあるまいし、それに、人の命にくらべれば問題にならんよ」
「だからさ、どういうわけであの二匹を君が……」
そんな押問答をしていると、突然犬小屋の方に、けたたましい吠声が起った。
「君、あれがゲンの声かい?」
「そうだよ……」
「よしッ……」
村田は、いそいで洋服に着かえはじめた。あっけにとられている喜村の眼の前で、村田が最後の上衣の袖に手を通した時だった。
美都子が、いそいで這入って来た。
「お兄様――」
「なんだい
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