喜村は、村田が読み終るのを待って、こんどは神奈川版と書かれた面を指《ゆびさ》した、見ると茅ヶ崎にも。という見出しで、矢張りきのうの午後六時頃、小学生の一人が、眠り病の発病をしたことが報ぜられていた。
「ふーん、ここも危くなっちまったんだね」
「そうなんだ、美都子もくさっていたよ、それで君のことを気にして、早く起して見ろなんていっていたんだがね……。それはそうと、これは素人《しろうと》考えだけど、この眠り病の病原体ってのは、大陸から来たんじゃないかね――」
「どして――?」
「どして、っていうと困るが、つい一ト月ぐらい前にね、ここで訓練した軍用犬に附《くっ》ついて国境の方まで行って見たんだが、あの辺にも相当この病気が流行《はや》っているらしかったぜ」
「ほう、初耳だね」
「別に、新聞にもそんなことは出ないようだがね」
「初耳だよ、で、犬はなんともないのかい」
「犬にゃ眠り病もないらしいね、しかしどういうもんか向うに行くと神経質になって、吠《ほえ》てばかりいて困ったが……」
「…………」
 しばらく眼をつぶっていた村田が、急に蒲団《ふとん》から飛起きた。そして
「君、君、きのう此処で吠た
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