な、センセイショナルな見出しが、うちたてられてあった。
眉をしかめてその記事を読み下して見ると
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今夏以来帝都を襲った睡魔『眠り病』の罹病者数は、秋冷厳冬の期を迎えても尠《すこ》しも衰えず、寧ろ逐次増加の傾向を示して当局必死の防疫陣を憂慮せしめていたが、俄然昨十日に至ってかねて罹病率の高かった工場地帯は勿論、ほとんど全市一円に亘って爆発的の発病者を出し、或いは執務中、或いは歩行中の者までが突然の発病に打倒れ、又は別項の如く進行中の電車の運転手の発病によって追突の惨事まで惹き起すにいたり、関係当局を極度に心痛せしめている、発病者は矢張り過労者及び幼小児に多いがしかし原因治療法ともに全く不明のため防疫は消極的にしかも困難を極めており、この爆発的発病数が続けば、ここ数旬にして帝都は挙げて睡魔の坩堝《るつぼ》と化し、黒死病の蔓延によって死都と化した史話の如く、帝都もその轍《てつ》を踏む惧《おそ》れなしとしない、なお当局では外出より帰宅の際はかならず含嗽《がんそう》を十分にして……
[#ここで字下げ終わり]
そんな様な意味の記事だった。
「なるほど、ね」
「まだある」
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