が滑り込んで来た。
 車内に這入ると、ごろごろ寝ている人が眼について、ぎょっとしたけれど、これは眠り病のせいではない、と気づいて、ほっとした。
 美しい美都子がいたので、思ったよりも早く、茅ヶ崎に着いてしまった。
 駅をおりて、海岸の方にしばらく行った所に、十分の敷地をとって、喜村の家があった。思ったより大仕掛に犬を飼っているらしく、冷たい月の光りのなかに、幾棟かのトタン葺《ぶ》きの犬小屋の屋根が、白々と浮んで見えた。
 時折、月に遠吠えする犬の声の間に混って、久しぶりに聞く浪の音も聞えていた。
「なかなかいいとこだね」
「まあ、健康的だろ」
「犬も相当いるようじゃないか、世話が大変だろう……」
「三十匹ぐらいだよ。それにいまシェパードなんかの軍用犬の訓練も引受けてるしね、助手は三人だが、まあ好きでなきゃ出来ないさ、はっははは」
「先きまわりしていっちゃったな、――まったく好きでなくちゃ出来ない」
 丁度その時、スエーターに半ズボンの若い男が入って来た。喜村の助手である。
 喜村が聞くと、助手はけげんそうに
「はあ、あの、お正午《ひる》すぎに、どうしたのかゲンが急に吠出しまして……それ
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