う――、も少し話そうよ』
『あ』
(了《しま》った――)
 中田は、押えられた手の下の肩に、気味のわるい汗を感じた。自分ではどんどん歩いていた積りであったが、いつの間にかぼんやりとした頭は、考えることに気をとられて、又ぶらりぶらりと歩いているところを、追いつかれてしまったものであろう。ああ俺は、なんという間の抜けた、だらしのない人間なのだ。
 中田にはもう腹立たしさを感ずる前に
(どうでもなれ)
 という棄鉢《すてばち》な気持が発生《わい》て来た――その中には、多分、この辺がやっと見当のついて来た安堵もあったろうが――。
『よし、君の話を聞いてやろう』
 中田と、その男とは漸《ようや》く、荒れ寂《さび》れた原を抜けて、すっかり落葉してしまった雑木林にかかっていた。
『まあ、少し休みましょうや』
 その男はこういうと、降り積った落葉《おちば》を、ガサガサとくだきながら、腰を下ろした。それを見た中田も、急に今日一日の疲労を感じて、投げ出すように腰を下ろすと外套を透《とお》して尻の下の落葉がカサカサと妙に乾燥した音を立てながらくだけるのを感じた。
 中田は、見るともなく周囲へ懶《もの》ぐさい
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