の切れた両側は一面の展《ひら》けた田圃《たんぼ》ですし、線路にそんな男がいたらきっと見つける筈だし、あんな頑丈な男だったら車のショックでもわかる筈だというばかりか、その終電車の車掌がこんなことをいい出しました。というのは最後部の乗務員室で背をもたれながらぼんやり飛去って行く窓の外を見ていますと丁度あのあたりで窓から洩れる車内燈《ルームライト》の光りの中に、フッと人影を見たというのです。それは立って歩いている人影で、而《しか》も、レールをはさんで右側を黒っぽい着物を着た男が、そして左側を、瘠形《やせがた》の女らしい人影があった――。その車掌もおやっと思っても一度たしかめようとしたのですが、何分《なにぶん》ヘッドライトもないし次の瞬間には車内燈《ルームライト》の光りの外に闇に消えてしまっていたというのですが、これを聞いた時、私たちさっきの青大将を見た連中は唇の色を失っていました。それにしても自殺などする筈もない倉さんが非番のしかも真夜中になぜあんな線路を歩いていたのか、一直線の見通しのきくところでなぜポンコツを食ったのか、そして田圃の真ン中のレールの上にどこから青大将が来て、轢かれたのか、
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