吉村君もそうらしかったのですが私は今日が丁度倉さんが生前虐待し通しだったという細君の、怨みをのんで自殺したという同じ日の同じ場所であったばかりか、そこへ得体の知れぬ青大将が心中するように寄りそっていたということや車掌の見たという男女の人影のことと、あの血みどろの恐怖に眼の球が半分以上も飛出していたすさまじい形相の倉さんの生首とを思い合せて、しっとり濡れたシャツ[#「シャツ」は底本では「シマツ」]の肩のあたりが変にゾクゾクと鳥肌立って来るのでした。而《しか》もその晩はお通夜なのですがこの辺は宗旨の関係上が今でも土葬のしきたりだそうで身よりもないし結局同僚だけで簡単な不気味なお通夜をすまし人夫を頼んで細君の墓場のよこを掘ったのですが、たった一年しかたたないのにいくら掘っても細君の棺桶が見当らないというのです。ようやくそれらしいところを掘りあてて見ますと、ただ土掘《どほ》の中がぽかんと少しばかり空洞《うつろ》になっているばかりで、そこから地上に向って直径一寸ばかりの穴がひょろひょろと抜け通っているきりだったのです。私たちはしょぼしょぼと降りつづく霖雨《りんう》の中に無言のまま立ちすくんでしま
前へ 次へ
全10ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング