蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)霖雨《ながあめ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+向」、第3水準1−92−55]《はる》か
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 毎日毎日、気がくさくさするような霖雨《ながあめ》が、灰色の空からまるで小糠《こぬか》のように降り罩《こ》めている梅雨時《つゆどき》の夜明けでした。丁度《ちょうど》宿直だった私は、寝呆《ねぼ》け眼《まなこ》で朝の一番電車を見送って、やれやれと思いながら、先輩であり同時に同僚である吉村君と、ぽつぽつ帰り支度にかかろうかと漸《ようや》く白みかけた薄墨《うすずみ》の中に胡粉《ごふん》を溶かしたような梅雨の東空を、詰所《つめしょ》の汗の浮いた、ガラス戸越しに見詰めていた時でした。思い出したように壁掛電話がチリン、チリン、チリチリンと呼出しを送って来たのです。そばにいた吉村君が直ぐ受話器を外しましたが
『え、何、ポンコツか――ふーん、どこに。うん、うん、行こう』
 といってガチャリと電話を切
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